現在では不妊治療にはさまざまな方法があり高度な技術も適用されるようになりました。しかし母体の身体だけでなく心も健康で安定していることは不妊治療の大前提です。
そこで今回は注目されている漢方の持つ力と不妊治療の関係をご紹介します。
不妊に対する漢方薬の効能
漢方薬に使われる材料は古来より中国や朝鮮半島でも伝統的に使われてきましたが、日本では漢方医学として生薬の組み合わせなど研究され独自に発展してきました。
漢方薬の処方は西洋医学とは異なり、使用する人の体質を診断し症状に合わせて行うのが原則で、身体全体の調子を整えることで病気の治癒を目指します。
漢方薬を不妊治療に使う女性は多くは治療中か治療経験者です。
治療中の人は元気な卵子や子宮の良い環境づくりのために漢方薬を使用します。
長引く不妊治療で体調が悪化している場合は、自身の体調を整える意味でも漢方薬の処方が行われることがあります。
これから妊娠をしたい女性であれば、冷え性や虚弱体質、生理不順などの体質を改善し、良い身体の状態で妊娠ができるように漢方薬が処方されます。
治療を経験したけどうまくいかなかった…という人の中には、ホルモン剤の多用によって漢方薬の効能を弱めてしまった場合があります。
また漢方薬には服用に問題は起こらないと考えられがちですが、身体に合わないとじんましんや食欲不振など不調が起こることがあります。
ただし漢方薬には「副作用」という概念はありませんので、問題があった場合「患者の体質に合わない処方を行った」と考えられるようです。
また漢方薬と西洋薬の飲み合わせや、漢方薬と食べ物の摂り合わせで不調が起こることもありますから、漢方薬を使用する場合は安易に頼らず専門の方に確認するなど注意しましょう。
不妊治療に使われる漢方薬の効果
漢方医学では人間の身体が「気」「血」「水」でめぐりそのバランスの良い状態を「健康」としています。
内臓の健康には自律神経・代謝・ホルモンが関連して機能しています。
漢方の処方ではこのような機能がうまくいっているのか検討し、不妊の原因に合った処方をします。
血液の循環を良くする漢方
血液の循環が悪いと受精卵を受け入れ胎児を育てる大事な生殖臓器に健康な血の巡りがいかなくなったり、胎児に栄養を届けにくくなったりしてしまいます。
漢方用語では血の循環が悪いことを「血虚(けっきょ)」や「瘀血(おけつ)」と言います。
「血虚」とはその字の通り血となる栄養分が不足してしまい、顔色が悪くなったり貧血気味だったり、睡眠障害や月経量が少ないなどの症状がみられたりするものです。原因としては栄養不足や悪い食事のバランス、冷えなどがあげられます。
一方「瘀血」になると血の流れがうまく行かず、肩こりや頭痛、生理痛、生理不順などの症状がみられます。特に子宮や卵巣など骨盤内の臓器への血行不良は不妊の要因になりやすいとされているので注意が必要です。原因としては冷えやストレス、運動不足などがあげられます。
血虚の場合には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や加味帰脾湯(かみきひとう)で血液を補い血液の循環を改善します。
瘀血の場合には「気」と「血」の流れを良くして生理の状態を整える作用がある桃核承気湯(とうかくじょうきとう)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を処方されます。
エネルギーを回復させる漢方
失われた身体のエネルギーを回復させるには、気持ちを落ち着かせてエネルギーを取り入れる気持ちを引き起こすことが重要です。
特に妊活中はストレスを感じ取りやすくなったり気苦労も多くなったりするので、妊娠を妨げないためにも気持ちのエネルギーをしっかりと蓄えておきましょう。
漢方では自律神経のコントロールがうまくいかないことを「気滞(きたい)」と呼び、イライラや憂うつ感、情緒不安定などがみられます。これは更年期の症状とも重なります。
ストレスは生殖ホルモンの生成を妨げて不妊状態を招く恐れがあるので注意が必要です。
もう一つ、エネルギーの不足によって疲れやすく倦怠感があり、胃もたれや下痢、不正出血などの症状を引き起こすことを「気虚(ききょ)」と言います。こちらは食事の栄養バランスの偏りや過労、激しい運動などが原因になることがあります。
気滞に対処するには心身のバランスを整えるための加味逍遥散(かみしょうようさん)や香蘇散(こうそさん)が処方されます。
気虚の場合は胃腸の働きを高めることで食欲を誘導することを目的として、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が使われます。
腎の機能を改善させる漢方
漢方の世界では腎は全身の様々な機能を取りまとめる生命力の源だと考えられています。その腎の機能を改善させることでホルモン分泌や卵子の成熟を高め、妊娠しやすい体を作ることができるというのです。
腎の機能が低下することを「腎虚(じんきょ)」と呼び、おもに運動不足やストレス、塩分過多などによって頻尿や残尿感、だるさ、精力減退などの症状があることです。普段の生活に気をつけることに加えて六味地黄丸(ろくみじおうがん)や八味地黄丸(はちみじおうがん)という漢方を合わせて服用することで効果を高めます。
またこの2つの漢方は健康な体に必要な「気」「血」「水」のバランスを整えて体を冷えから守ってくれる役割もあります。
漢方薬はドラッグストアなどでも手軽に買えますが、特に不妊治療中や妊娠の可能性のある場合は漢方医や産婦人科医に相談して、自分の体質に合った漢方薬を処方してくださいね。
また、漢方の力だけに頼らずにご自身も栄養バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスをため込まないなどを心がけた生活を送ることが大切です。