母体保護法という法律をご存知でしょうか?中絶手術を行うには母体保護法という法律に基づいて手術を受ける必要があり、様々な指定の元に中絶手術を行うことができるのです。
1母体保護法とは
母体保護法とは不妊手術及び人工妊娠中絶に関する手術事項を定めることにより、母性の生命的な健康性を保護することを目的にした法律です。
不妊手術というのは妊娠を望まない女性が生殖を不能にする手術で、現在ではほとんど行われていません。このため、母体保護法は現在ではほとんど中絶手術についての権能を定めた法律として機能していると言っても過言ではありません。この法律の中で中絶手術についての条件が詳細に定められ、妊娠初期中絶と妊娠後期中絶について厳密に決められているのです。
2母体保護法で定められた中絶の条件
母体保護法で中絶手術が許可される条件が定められていて、以下のような条件の元に中絶手術が行われています。
まず、中絶手術を行うには母体保護法第14条に基づいて本人及び配偶者の同意の元に手術を行うことができると定められていて、2つの条件が明文化されています。
一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
このような手術の同意は配偶者が知れない場合や、相手から意思表示を受けることが不可能な場合には本人だけの同意で手術ができます。
この手術の他に重要なのが手術可能な時期の確認です。妊娠中絶の時期は明確に定められている訳ではありませんが、法律上は胎児が体外で生存可能なじきになった後には中絶手術を行うことができなくなります。このため、現在では昭和後期頃の期間よりも中絶可能な期間が短縮され、以下のように定められています。
妊娠初期中絶…妊娠11週程度まで
妊娠中期中絶まで…妊娠21週程度まで
妊娠22週程度以降の中絶は胎児が体外で生存可能なことから現在では手術を行うこと自体が禁止されています。
3妊娠中絶の期間の理由
妊娠中絶が可能な期間は度々変更されていて、その根拠として考えられるのが未熟児の医療の発達です。未熟児は現在体重500g程度あれば体外で生存可能だと言われており、生存可能な胎児を中絶するということに法律上非常に様々な問題が生じてしまいます。例えば相続権の問題や生存権の問題などがその一例で、これらの法律上の問題を回避するために現在では中絶の条件が厳しく設定されています。特に法律の問題は非常に複雑で、胎児が仮に生存できる場合には胎児の段階から認められる人権についての回避が絶対に必要になります。
中絶手術は刑法などの刑罰に関する法律だけでなく民法といった私権(一般的な法律上の権利)に関する法律も関与する非常に難しい問題をはらんだ手術です。このため、中絶手術を行う期間について年々期間が短縮されることが一般的です。
4中絶手術はだれでもできる訳ではない
中絶手術を受けるには実は母体保護法で認められた医師の元で手術を受けることが義務付けられているのです。中絶手術は法的にも技術的にも専門性が高く、産婦人科の専門医以外にも母体保護法の指定を受けた医師だけが中絶手術を受けるように法的な保護が与えられています。
中絶手術の一番の目的は単なる妊娠の中断というだけでなく、母体の健康・安全を担保するという目的によって行われています。このため、母体にとってより安全でより負担の少ない手術方法を選択することが義務付けられていて、妊娠週数の判断や手術法の選択、手術をすることの適法性の判断を産婦人科医の中でも母体保護法の指定を受けた指定医に限定しているのです。
現在では多くの母体保護法の指定医が医療を提供していて、ホームページなどで確認すると数多くの病院で手術を受けることができるようになっています。自分の納得出来る環境を探し、手術の相談をするのが適切でしょう。
5中絶手術の問題点
中絶手術を行うにもあまり妊娠週数が長くなってしまうと手術の期間に見合わず、出産することが義務付けられてしまいます。また、中期中絶のように体への負担が大きい手術を受けるのはあまり得策でなく、産婦人科医の判断により手術を受けられない可能性も出てきます。このため、単に妊娠週数を鵜呑みにして手術を受けるのではなく、あらかじめ産婦人科医と相談を繰り返したのちに手術を受けるのが得策かもしれません。
中絶手術は女性にとって非常に悲しい体験で、多くの女性にとって避けて通りたい手術だと思います。しかし、母体の健康や母体の安全を考えた時にはどうしても避けて通れない場合もある手術です。不安な思いもあるかもしれませんが、必ず早めの相談と早めの手術の選択をすることが母体にとって最も健康を害さずに済むのです。